前回は、高校卒業後にスイミングスクールやスポーツクラブでの仕事にのめり込み、母の後押しでフィットネスクラブの支配人として新たな一歩を踏み出すまでをお話ししました。
今回は、そのフィットネスクラブで経験した、私の人生を大きく変えた「ある出来事」についてお話しします。
耳を疑う社長の言葉

こうして始めた大阪のフィットネスクラブでの仕事は、これまでの現場で教える立場とはガラリと変わり、マネジメントや店舗運営が中心でした。
スタッフたちの管理や育成など、裏方として組織を動かすマネジメント業務に、日々試行錯誤しながら取り組んでいました。
そして、働き始めて数年が経ち、30歳を超えた頃。新卒で働き始めた社員たちも、結婚を考えるようになり、こんな相談を受けるようになりました。
「田中さん、僕、そろそろ結婚しようと思ってるんです。でも結婚したら、この会社は辞めなあかんと思ってるんです」
私が「結婚するなら、なおさら頑張って働かなあかんのとちゃうの?」と聞くと、「この給料では家族を養うことは難しいし、休みも少ない。家族と過ごす時間も取れない。この仕事は、家庭を持ったら続けられないと思うんです」という返答。
当時の会社の給料体系は「年齢×10万円」が相場でした。例えば22歳であれば、220万円とボーナスの合算が年収、ということです。
確かに、結婚して家族を養うとなると、心もとない給料ではありました。
そこで、私は社長に「若い社員たちの給料を上げてもらえませんか?」とたびたびお願いしましたが、半年ほど経ったある日、突然社長室に呼び出されました。
「田中、お前のええところは親分肌なところや。でもな、あかんところも親分肌なところや」
そして、社長はこう続けました。
「あのな、社員はな、100円ライターでええねん」
は?????????
私ははじめ、社長が何を言っているのか、全くわかりませんでした。
「社員はな、使い捨てでええねん。だから、100円ライターと一緒やねん。若い社員の給料が上がってきたら、うまいこと言って辞めさせる。そしたら、また給料の安い若者を採用する。それを繰り返していれば、人件費はずっと安いままで運営できるやろ」
雷に打たれたような衝撃を受けました。
実は私は独学で試算表を作り、店舗の数字やお金の流れを把握していたので、会社が儲かっていることは知っていました。
それなのに、社員を使い捨てにするなんて…。
私はどうしてもその社長の考え方に納得がいきませんでした。
しかし後になって思えば、あれは人材育成や投資の重み、そして生き残りをかけた「商売の厳しさ」を、私に身をもって教えてくれた言葉だったのかもしれません。
自分で会社をやるしかない
このやり取りがあってからというもの、私は採用面接に来た優秀な人に「もしかしたら、◯◯さんはうちよりも、他社の方があうかもしれません。大手のほうが向いてるかもしれませんね」と誘導したり、「じゃあどうすればいいでしょうか?」と聞かれると、他社を紹介したりしていました。
しかし、「自分は会社から給料をもらいながら、会社に対する裏切り行為をしている」と薄々感じていました。
そして、考えた末、1つの結論にたどり着きました。
「たとえ、よその会社に転職したとしても、社長の方針に基づいて会社は運営される。どこへ行っても、多かれ少なかれ同じ問題にぶつかる。今自分が感じている問題は解決されない。となれば、もう自分で会社をやる以外に道はない」
そして私は、将来「自分で会社をやる」と決め、約8年間務めたフィットネスクラブの会社を後にしました。
ーーこうしてフィットネスクラブを去った私は、本格的に社長になるための修行を始めることに。
次回は、まったく未知の建築不動産業界に飛び込み、仕事も私生活もすべてをリセットすることになった日々をお届けします。