はじめに言っておきます。今回の記事は長くなります(笑)。
これまで私の生い立ちや歩んできた道をお話ししてきましたが、一旦締めくくりとなるこの記事では、経営者として、一人の人間として私が大切にしている考え方と、アンビシャスの理念に込めた想いをお伝えします。
なぜわざわざブログに書き残すのか。
それは『自分はいつまでも生きているわけではない』という前提で物事を進めているからです。ぜひ最後までお付き合いください。
考え方は、残り続ける
「人はいつまでも生きているわけではない」
それを特に実感したのは、私が一時期社長を務めていた関門海でのこと。関門海の創業者は、会社が上場したわずか半年後に交通事故で突然亡くなられました。私は創業者に一度もお会いしたことがありません。
にもかかわらず、私はその創業者の理念を「確かに感じる」ことができました。
それは、関門海の料理を食べることを通してでした。
「美味しいものを、お客様にリーズナブルに食べていただきたい」という創業者の想いが、一皿一皿にしっかりと宿っていました。だから私は、会ったこともない創業者の想いに、確かに触れることができました。
では、私がいなくなった後は、何を通じてアンビシャスの理念を感じてもらえるのか。まさかコンテナに触れて田中正を感じる人など、いるわけがないですよね(笑)。
だからこそ、私のベースとなる「考え方」や「理念」の意味をしっかりと言語化して残し、それが社員の皆さんの中に浸透し、受け継がれていくようにしたいわけです。
改革の先へ ― ここからが本番
前期は、想定以上の成果を残すことができました。私も現場に入って指揮を執り、社員の皆さんの頑張りもあって、改革はとてもうまく進みました。
ただ、改革がうまくいったからといって、ここで満足してはいけません。大切なのは、これから先です。
なぜなら、物事には「振り子の原理」というものがあり、大きく振れた分だけ、必ず大きな揺り戻しが来るからです。改革が終わったところで安心してしまっては意味がない。ここで終わりではなく、ここからが本当の意味でのスタートですから。
大切なのは、「この1年でやってきたことを、企業文化として根付かせていくこと」。
そして、それを主体的に行うのは、私ではなく社員の皆さんです。もちろん、私は相談に乗りますし、必要なときにはアドバイスもします。でも、あくまで主体は皆さんです。
今年は、自分たちの手でやり切り、もっと力をつけていってください。
“人”についていかない。”理念”についていく
では、改革を文化として根付かせるために、何が必要なのか。
それは、「人」ではなく「理念」を拠りどころにすることです。「〇〇さんについていきます!」という、人についていく姿勢ではいけません。
誰かについていくということは、その人をカリスマにするということです。カリスマ社長を社員全員で支えるような会社は、そのカリスマがいなくなった瞬間に、ばらばらになってしまいます。
大企業を見てみてください。銀行でも商社でも、任期が終わればトップは交代していきます。それでも会社は発展し続けている。なぜか。
それは、「人が変わっても動く基盤、仕組みができあがっているから」です。
ここで言う仕組みとは、制度やマニュアルのことだけではありません。日々の判断の拠りどころとなる理念の浸透、文化の醸成まで含めて、はじめて本物の仕組みと言えるのです。
アンビシャスでも、そういった本物の仕組みをつくっていきたい。人は誰もがいつかはいなくなる。でも、考え方は残り続けます。ですから、「田中さんについていきます!」ではなく、「考え方そのもの」を皆さんに継承していってもらいたいのです。
では、その「考え方」とは何なのか。ここからは、私の経営の根幹にあるものをお話しします。
私の経営の根幹にあるもの
私がこれから話すことは、何も私が最初に思いついたことではありません。2500年前から言われていることを、今の時代においてそのまま実行しようとしているだけです。
時代とともに変わる手法やテクノロジーではなく、何百年、何千年経っても変わらない、不変の考え方。私はそれを経営や人生のベースとしてきました。
中でも私の考え方の土台になっているのが、中国古典です。特に好きなのが、老子の説いた「無為自然」という考え方です。
無為とは、何もしないという意味ではありません。「無理なことはせず、自然の流れに沿って最善をなす」という意味です。
この言葉自体は若い頃から知っていましたが、実践できるようになったのは、ここ2〜3年の話です。
昔の私なら常に、「絶対に諦めるな!」「達成するまでやるんや!」と言っていました(笑)。それが今では、「じたばたしても、無理なものは無理や」ということをようやく悟り、「その話は無理やと思うで」「一旦ほっといたらええねん。また時期がきたらうまくいくようになるわ」と伝えるようになりました。
この「無為自然」を経営の視点で実践すると、「細かく管理しすぎない」「人を無理に変えようとしない」「市場の流れに逆らわない」ということになります。
ただ、相手に無理強いしない分、当然時間はかかります。
逆に、無理やり人を動かせば短期間で結果は出ます。しかし、そうやって無理に進めたものは、すぐに崩れる。それは、私自身が何度も経験してきたことです。
ですから私は、理念を示し、考え方を伝えた上で、権限を委譲しています。ただし、ただ任せるだけでは上手くいきません。そこで不可欠なのが「強いビジネスモデル」です。
かつて私が携わった関門海もそうでしたが、強いビジネスモデルという強固な土台があるからこそ、人が力を発揮でき、成果が出続ける仕組みが生まれます。
理念という軸と、強いビジネスモデル。
この両輪があるからこそ、一人ひとりが自分の考えを持って責任を果たし、結果として社長がいなくても会社が自然と回るようになります。
松下幸之助「衆知を集める経営」と「集合天才」
中国古典と並んで、もう一つの柱となっているのが、松下幸之助さんの哲学です。現在のパナソニックホールディングスの創業者であり、私が最も尊敬する経営者です。
幸之助さんは「会社は社会の公器である」とおっしゃいました。 会社にあるお金も、設備も、そして一緒に働く「人」も、すべては社会からの借り物であり、預かりものです。
「全ては経営者の所有物ではない。だから、会社を私物化してはいけない」
これが私の経営の根底にあります。
では、その社会からの預かりものである「人」の力を、どう活かすのか。 そこで重要になるのが、幸之助さんの言われる「衆知を集める経営」です。
これは「みんなの知恵を集めて、何かを成し遂げる」という意味です。
私はこの言葉を自分なりに言い換えて、「集合天才」と呼んでいます。
一人が飛び抜けて仕事ができる状態を目指すのではなく、知恵を持った一人ひとりが集まり、その集合体として大きな仕事を成し遂げていく組織です。
そして、その組織が目指すべき姿が、幸之助さんの大好きな言葉である「日日新た(ひびあらた)」です。
「今日は昨日のままであってはならない。明日は今日のままであってはならない」
毎日新しく生まれ変わり、変化し続けていく。社会から人とお金をお預かりしている以上、「集合天才」として仲間と知恵を出し合い、絶えず成長し続けることこそが、経営者の果たすべき責任だと考えています。
孟子「天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず」
集合天才を実現するうえで、もう一つ大切にしていることがあります。それが「時」です。
歴史に名を残した偉人や経営者は、「何をやるか」以上に、「いつやるか」を大切にしています。
「天の時」というものですね。
物事は、「天の時」「地の利」「人の和」が揃わないと動きません。いくら努力しても、早すぎたり、遅すぎたりしてはだめ。行動を起こすべき「天の時」は確かに存在するからです。
その上で、孟子は「天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず」という言葉を遺しました。
どれだけ良いタイミングを掴んでも、それは良い立地には及ばない。そして良い立地であっても、人の和には及ばない、という意味です。
つまり、根本に大切なのは「人の和」。個人の能力も大切ですが、それ以上に人同士の調和と団結こそが、事業を成功させる根幹です。
ただし、ここで言う「和」は、お互いに気を遣ってなあなあになる「仲良しグループ」のことではありません。同じ目標や理念に向かって、個々の強みを活かしながら協力し合う、「志の一致」を指しています。
同じ志を持ち、目指すべき方向が一つに重なったとき、チームには本当の意味での一体感が生まれ、「士気」が一気に高まります。
目に見えないものを大切にする
こうしてお話ししてくると、私の言いたいことが少しずつ伝わってきたのではないでしょうか。「田中は、目に見えないものを大切にしている人なんだな」と。
会社には、財務諸表があり、店舗数があり、売上があり、時価総額がある。これらはすべて、目に見える数字です。一方で、信用、社風、評判、流れ、人間関係、経営の運といったものは、目には見えません。
でも、本当に大切なのは、そういった目に見えないものの方です。
今の時代は変化が非常に激しく、過去のデータや論理だけで答えを出そうとする「理屈の人」にとっては、厳しい環境になっています。世の中に成功本が溢れていても、そのロジック通りにやって上手くいくとは限らない。それは、目に見えない変化を直感的に感じ取る「感性」が必要だからです。
感性の鋭い人は、理屈を超えて、時代の変化や小さな兆候をいち早く感じ取り、柔軟に適応していくことができます。
そしてこの「感性」は、時代の変化だけでなく、日々の現場や人間関係においても全く同じです。
たとえば、会議室に入った瞬間に「ピリッ」とした空気を感じることもあれば、「すごくいい雰囲気だな」と感じることもある。見えないけれど、確かに感じるものがあります。
そして、その「場」が良い方が、意見は出やすくなるし、物事はいい方向に進む。だから私は、この場のエネルギーをとても大切にしています。
皆さんにも、こういった目に見えないものを大切にする感覚、見ようとする姿勢、感じ取る力を、少しずつ身につけていってください。
理念に込めた、すべての想い
無為自然、集合天才、人の和、そして目に見えないものを大切にすること。これまでお話ししてきた考え方のすべてを込めてつくったもの。それが、アンビシャスの企業理念です。
創業時から変わらぬ理念。
「政(まつりごと)も経営も器である。時空を志で感じられる人格者であれ」
難しく聞こえるかもしれませんが、言っていることはとてもシンプルです。
「政(まつりごと)」とは一般的に世の中を治めることを指しますが、その語源や根底には「根(ね)」という意味が含まれています。そして、事業や社会における本当の「根」とは、他でもない「人」です。
つまり、「まつりごと(政)とは、人そのもの」です。
経営もまったく同じです。経営の本質は「人」にあります。働く人がいて、その人たちが幸せになれるように事業をつくり、育てていく。
それこそが経営の根幹です。
「器」とは、自分のことだけではなく、仲間や世の中のことまで考えられる力のこと。自分一人の損得を超えて、どれだけ広い範囲のことを自分ごととして捉えられるか。それが器の大きさです。
「時空を志で感じる」とは、今この瞬間だけを見るのではなく、何年後、何十年後の未来や、先輩たちの生きた過去を想像できるということ。時間と空間を超えて、志でつながっていける人間であれ、ということです。
そして「人格者であれ」。器を持ち、志を持ったなら、それを私利私欲のためではなく、人のために使いなさい、ということです。
ホームページのリニューアルに伴い、この企業理念はMVVとして新しい表現に書き換えています。しかし、根本にあるこの理念、いわば魂の部分は、今後も絶対に変わりません。
桜の散り際
最後に、私自身の目指す「去り際」について、少しだけお話しさせてください。
私の座右の銘は、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」。実れば実るほど、稲穂は頭を低く下げていく。人も同じで、成果を出せば出すほど、謙虚でなければなりません。
そしてもう一つ、私は、老子の説いた「功成り名遂げて身退くは天の道なり」という言葉を、自分の生きざまとしています。仕事で成功して名声を得たら、いつまでもその地位や権力にしがみつかず、潔く身を引くのが人の道である、という意味です。
これまで複数の会社で社長を務めてきましたが、やると決めたことを達成したら、そこで身を引いてきました。その地位や名声に未練はありません。
私は、桜の散り際がとても好きです。もう少し見ていたいな、と思うところで散っていく。だからこそ、また来年が楽しみになる。花がもう散ってしまったのに、まだ「俺は桜だ」と威張っているのは、ちょっと私の思うカッコいい生き方ではないですね。
「田中さん、辞めちゃうんですか? もう少し居てくださいよ」と言われるくらいが、ちょうどいい。嘘でもいいから、そう言ってもらえる方が私としては嬉しいですね。
私はいつか、この場所から必ずいなくなります。でも、考え方はずっと残ります。
ここまで書いてきたことが皆さんの中に残り、それが次の世代へと手渡されていくのなら、この文章を書いた意味があったというものです。
皆さんの未来は、今ここにあります。
それぞれの物語を、それぞれの手で紡いでいってください。
歩んできた道、そして感謝の気持ち
思い返せば、私の歩んできた道は全て今につながっています。
サラリーマン時代に学んだ、職種ごとの泥臭い経験。 ネクストジャパンで学んだ、経営者としての想いや目的、目標。 関門海で学んだ「人の良いところを見る」「いつでも笑っておく」という姿勢と、個性を活かす大切さ。 Team Energyの創業者と働く中で体験した、大きな発想やこれまで見たことのない新しい世界。
そして、証券会社をはじめとする金融機関の方々、弁護士の先生、コンサルタントの皆様、第三者割当増資の引受先の企業様・個人の皆様、いつも心の支えになっていただいた友人(友人は2人しかいませんが)…ここには書ききれないほど多くの支えてくださった方々のご尽力と伴走があったからこそ、幾多の局面を乗り越えてくることができました。
それら全ての集大成がアンビシャスです。 「世の中の役に立つ人になりたい」という、私自身の人生の目的そのものを体現する場所となりました。
そしてこれからはというと…「愛」や「幸せ」といったものを、深く体感しながら生きていきたいですね。もうぼちぼち、そんな時期かもしれません。
…と、まあ「どの口がゆーとんねん(笑)」と自分でもツッコミを入れたくなりますが、これまで私に関わってくださった全ての方々へ、この場を借りて心からの感謝を申し上げます。
本当に、ありがとうございました。
…これで記事は一旦終わりとお伝えしましたが、またふらっとこのブログを更新するかもしれません(笑)。その時はぜひ、またお付き合いいただければ幸いです。